一瞬見るとお豆腐のように見える白くて丸いモッツアレラチーズ。イタリア南西部のカンパニア州が原産で、代表的な料理は、スライスしたトマトとモッツレラチーズ、バジルが交互に並び、イタリアの国旗の色同様に緑、白、赤の3色が綺麗なコントラストを織りなす一品だ。そんなモッツアレラチーズを本場さながらに、ニューヨークで作り続けている人がいる。イタリア人のフランコ・スパトーラ氏、またの名は「ニューヨークのモッツアレラチーズキング」だ。
起業のきっかけは??
フランコ氏がイタリアからニューヨークに移住したのは21歳の時。既にアメリカに来ていた親戚から、アメリカで生活してはという誘いを受け家族全員でニューヨークにやってきた。イタリアでは、セミプロのサッカー選手だったフランコ氏。プロのサッカー選手の夢を捨てやって来たアメリカで、英語も話せなかった彼にとって出来る仕事といえば皿洗いの仕事ぐらいしかなかった。
しばらくして、家族一丸となってマンハッタンのシアターディストリクトにイタリアンレストランをオープン。10年以上も営業を続けたレストランだったが、家賃の高騰でリースの再契約ができなくなり、閉店することに。その後、ウエイターとして生計を建てていたが、独立したいという気持ちが強くなり、モッツアレラチーズの製造、販売ビジネスを始めることに。起業のきっかけはもちろん単なる思いつきではなく、イタリアでチーズ屋を営む父の傍らで、子供の頃からチーズ作りに従事していたという経験が根本にある。
「実際食べてもらうのが一番なんだよ」
手作りのモッツアレラチーズを少しづつ、知り合いのイタリアンレストランに持って行き、試食をしてもらい始めた。「いくら美味しいから買ってくれと説明してもダメ。実際に食べてもらうことが大切だからね。一軒、一軒回って試食をしてもらったよ」と当時を振り返るフランコさん。その頃はモッツアレラチーズの認知度も低く、消費量も今に比べて低かった。イタリア料理の食材を専門に取り扱っているグロッサリーぐらいでしか、モッツアレラチーズを扱っているところはなかった。
チーズの評判は徐々に広がり、オーダーが取れるようになったが、当初は車もなく、電車でレストランに配達をしたそうだ。その後、クィーンズのアストリアにレストランを構え、そこでモッツアレラチーズを作るようになった。オーダーは増え続け、遂にクィーンズのリッジウッドに工場を構えるまでになった。
現在フランコ氏のモッツアレラチーズ工場は、月曜日から土曜日までフル回転。1日1300キロから1800キロのモッツアレラチーズを製造している。大きさは様々で、レストランのニーズにあわせたサイズを用意している。モッツアレラチーズは、「ミルクカード」と呼ばれる牛乳を凝集したものに、熱湯と食塩を注いで練り込む。そしてやわらかくなったものを型に流し込み、同じサイズに切り分けるのだ。切り分けられたチーズは、冷水の入った容器で一旦冷やされた後、サランラップに巻かれていく。フランコさんがモッツアレラ作りを始めたころはすべての行程が手作業だったそうだ。9年前に工場を構えてからは、大量生産を可能にしたが、手作りの時と同じ味にこだわるフランコ氏。美味しいモッツアレラチーズを作るコツは、ミルクカードに混ぜる塩、pH (水素指数)、お湯のバランスとまでは教えてくれるが、もちろん詳細は門外不出のトップシークレットだ。
フランコ氏のモッツアレラは柔らかすぎず、硬すぎずない適度な噛みごたえ。また塩気も絶妙だ。そして、なんといってもフレッシュ。熟成させる硬質チーズと違い、モッツエレラはフレッシュさが命。出来立てのモッツアレラチーズを口に運んだ瞬間、家族代々伝わる秘伝のレシピの奥深さと、フランコ氏のモッツアレラに対する情熱とこだわりに納得できる。現在この工場で作られたチーズは、多くのイタリアレストランで販売されている。ちなみにマンハッタンに6店舗ある人気のピザ屋Patsy’s Pizzeriaでもフランコ氏のチーズを使用。美味しいピザにはこだわりの食材。納得のコンビネーションだ。
最近では、気軽に美味しいモッツアレラチーズを家庭でも食べてもらおうと真空パックでの販売も開始。なんと、冷蔵庫に入れておけば一ヶ月も保存可能。美味しく食べるコツは、パッケージを開ける前にそのままちょっとお湯につけておくこと。中に凝縮されていた脂肪分が程よく溶け出し、うまみと共にフレッシュさが蘇ってくる。 また、このモッツアレラは昨年オープンした彼のイタリアンレストラン「Da Franco Ristorante Italiano」でも食べられる。是非フランコ氏のこだわりを体験して欲しい。
「Da Franco Ristorante Italiano」は、クィーンズ地区の北東に位置するアストリアにオープンしたフランコ氏のレストラン。自慢のモッツアレラチーズはアペタイザーメニューにふんだんに使われている 。通常のモッツアレラチーズに加え、一口サイズのモッツアレラ“ボッコンチーニ”や、スモークモッツアレラもある。
21種類のブリックオーブンピザにもモッツエレラチーズがふんだんに使われている。16インチ、18インチのピザにモッツアレラチーズとお好きなトッピングを乗せて、オリジナルピザを創ることも可能。生地にはサモリナ粉が使われており、香ばしく焼きあがるもっちり感がある。人気のピザは、「Pizza Alla Modena」。出来立てのフレッシュなモッツエラ、チェリートマト、ルッコラ、良質の生ハムに、パルミジャーノ・レッジャーノがかけてある。この豪華なトッピングで、なんと$13.50とは驚きだ。
パスタはすべて手作り。ドライパスタは市販のものを使っているレストランが多い中、スパゲッティーまでも手作りというところは珍しい。お勧めの一品はなんといっても、こしのある手作りスパゲティーに、ムール貝、いか、えび、貝が軽めのトマトソースとあえてあるシーフードスパゲッティー「Spaghetti Al Filetto di Pomodoro」。レシピはフランコさんのお母さん直伝の味。メインも、チキン、子牛、魚料理、ビーフとバラエティーも豊富。
ニューヨークには多くのイタリアンレストランが存在するが、これほどフレッシュなモッツアレラチーズを贅沢に使った料理を食べられる場所は少ない。わざわざクィーンズにまで足を運ぶ価値のある、ディスティネーションレストランだ。
Da Franco Ristorante Italiano
23-92 21st Street
Astoria, NY 11105
Tel: 718-267-0010
dafrancoitalianrestaurant.com