「デザートはシンプルさを一番大切にしている」とペイストリーシェフのビヨン・ベッチャーさんが強調するようにCianoのデザート「Seasonal Napoleon(シーズナルナポレオン)」は、甘さ控えめ、静かでふんわりと優しい印象を残す。ホームメイドで、季節によって素材、ソース、サイドのジェラートが変わり、今の時期のメインにはルバーブを使う。ルバーブとは、ダテ科の野菜で独特の甘酸っぱさと香りを特徴とし、ヨーロッパではスウィーツやサラダ等色々な用途で使われている。さらに彼のナポレオンは普通のナポレオンパイとは違い、パイ生地の変わりにギリシャ料理によく使われるフィロー生地を使用しているのだそう。
ビヨンさんの柔軟な料理のアイディアの理由は彼のバックグラウンドにある。ドイツ出身で、自国の料理学校とレストランで経験を積み、渡米後はオーストリア料理、ドイツ料理、フランス料理、イタリア料理などのレストランでペイストリーシェフとして働き、様々な国の料理の影響を受けてきた。そんな彼は「料理の国籍という枠にとらわれずにやっていきたい」という。
パリっとした薄いフィロー生地の下で、ルバーブの甘酸っぱさがほどよく存在感を発揮し、レモンの香りの甘過ぎないライトなカスタードがさりげなくそれを支えている、なんともバランス感覚抜群なスウィーツである。サイドのラベンダージェラートもひんやりクールに美味しい。口に広がるラベンダーの風味が良いアクセントとなり退屈させない。秋バージョンのナポレオンはもう少しキャラメル感をだす予定だそう。
そしてもう一つの絶品、「Tiramisu(ティラミス)」。ビヨンさんのティラミスは、層になっていない。ティラミスの要素を分解して再構築したような、遊び心たっぷりな一品。食べた瞬間にコーヒー風味で甘さ控えめのふわっとしたムースが口の中に広がる。黄色とオレンジを基調とした内装のほんわかとあったかい雰囲気の店内とマッチした彼のデザートは、「甘すぎて食後のデザートなんて食べられない」という人にも自信を持ってオススメできる。「イタリアンレストランだからといって食事をする必要があるわけではないんだよ。他の店でディナーを終えた後にでも、コーヒーとデザートのために気軽に立ち寄ってくれればいいんだ。」そう語るビヨンさんの言葉の裏には、自身の作るデザートに対する愛情と自信が感じられた。
Text by Haruka Suzuki