ニューヨークでもストリートフードとして定番のプレッツェルだが、本場の味はひと味もふた味も違う。マンハッタンでチェーン展開する某プレッツェル専門店では、古くて乾いていたり、加熱が足りなかったり、脂ぎっていたりするソフトプレッツェル を提供し、ドイツのオリジナルに近付く事がほとんど出来ていない。「ニューヨークのプレッツェルのほとんどは、ただプレッツェルの形をしたパンだ」と語るドイツ人達もいる 。
ロシア生まれのペストリーシェフでありSigmundのオーナーのLina Kulchinsky氏が作るソフトプレッツェルはドイツやスイスで愛されてきた伝統の製法によるものだ。
プレッツェルの特徴である、濃い茶色の焼き色と内部の白さのコントラストは、 一般的には焼く直前の生地をベイキングソーダの液に浸けることで生まれる。 だが、ここsigmundでは更に一歩踏み込んで、伝統の灰汁「Lye」
を使用する。ベーキングソーダより遥かに強力なこの液体を使用することが伝統のプレッツェルの証といえる。この強アルカリ液に浸けることで外はこんがり、中はしっとりもちもちした食感となるのだ。
Sigmundのプレッツェルは濃い褐色でいかにも職人技といった佇まい。店の奥が調理場となっており、毎日焼きたてを食べる事ができる。オーソドックスな粒塩の効いた「Salted」、濃厚なフェタチーズの「feta olive」、こんがり焼けた「truffle cheddar」や、ポピーシードやヒマワリの種を使った「Seeded」などが人気だ。もっちりとした生地は噛めば噛む程味わい深く、1個で十分満足できるボリューム。プレッツェルにはそれぞれディップソースがついており、甘く滑らかなハニーマスタードや真っ赤なビートホースラディッシュ、ラズベリージャムなど9種類から選ぶ事ができる。
もともとドイツやスイスではプレッツェルはパン職人の技術を誇るもので、フランスのバケットのように、人々の生活にしっかり根付いているパンだ。ヨーロッパの街を歩けば、プレッツェルの意匠を施したパン屋を頻繁に見かける事ができるだろう。
人々に長年愛されてきた本物のプレッツェルを味わえるのはニューヨークでもほんの数店舗しかない。しかし、sigmundのプレッツェルはDEAN&DELUCAなど有名なデリやレストラン、バーでも楽しむ事が出来る。メトロポリタン美術館前にてフードトラックでも販売中だ。イーストビレッジの本店ではコーヒーやソーダの他、ブルックリンラガーと共に楽しむ事が出来る。本物のプレッツェルを、ぜひ一度試してもらいたい。
Text: Aki Watanabe