多くの話題のレストランが月日と共に忘れ去られて行くのはニューヨークでは当たり前。そんな中、2009年のオープン当時からの人気を保ち、未だにディナー時にはテーブル待ちのニューヨーカーでバーが埋め尽くされる…そんな活気あるグリニッジビレッジのレストラン「Minetta Tavern」。1930年代に同じ場所にあったバーの内装をそのまま使用した雰囲気ある店だ。今回ご紹介するのは、ニューヨークのオートクチュールなバーガーの火付け役とも言われているこの店のバーガー「Black Label Burger」。値段はなんと26ドル。ニューヨークの人気バーガーショップ「Shack Shuck」の看板メニュー「Shackburger」が5個も食べれてしまう値段。しかしこの値段には訳があり、桁外れに高いこのバーガーを食べるためにニューヨーカーは集うのだ。
値段の訳はそのこだわりと素材のクオリティー。まず、旨さの秘訣である肉とそのブレンドはこだわり抜いている。ニューヨークでトップと言われる肉をいくつもテイスティングした末、精肉業界のカリスマ、Pat La Friedaの提供する肉を使用する事にし、Pat La Friedaはこのバーガーのために特注のパティ、Black Label とを作り上げた。ドライエイジされた肉の脂身は柔らかすぎるため、その代わりに赤身を使用する。しかし、赤身は旨味が最高潮に達するには通常よりも長い期間の熟成が必要となるため、手間がかかる。勿論、肉のブレンドは極秘だ。仕上げの行程でパティには、塩こしょうがまんべんなく馴染ませられ、旨味が極限にまで引き出されている。
使用するバンズは、マンハッタンの人気ベーカリー「Balthazar Bakery」が請け負う。何を隠そう、このベーカリーはMinetta Tavernの姉妹店。このバーガーのためにカスタムオーダーのバンズを用意している。試行錯誤の上に作り上げたのは、セサミシードがちりばめられ、皮がこんがり焼けたブリオッシュ。このセサミシードと皮の香ばしさがバンズにナッツのような風味をプラスする。勿論パンの中身は、ブリオッシュらしくクリーミーで豊かな甘みがある。バターと塩を通常のブリオッシュより多く使用しているために、クロワッサンにも似た味わいだ。バンズは一日寝かせられ、ハンバーガーに使用するに適した堅さに調整させるという気の配り様には脱帽だ。
また、このバーガーの特徴はチーズが乗せられていない点。これは、バンズとパティのバランス、それらによって作り出される深い旨味を考え、チーズは必要ないと考えられたからだそうだ。(チーズはオーダーの際にリクエストする事も可能)
パティの上に載せられるのはキャラメライズされたオニオン。パティを焼いた後の肉汁の上で炒められ、ジューシーな付け合わせへと姿を変えている。それにフレッシュなトマトとレタスが添えられてテーブルに登場する。
バターと共に焼き上げられたパティは厚みがあるが中は、ふわっとした仕上がり。がぶりとやると、閉じ込められていた肉の旨味が口の中で解放される。バンズは肉汁をしっかり受け止めて逃がさない。トマト、レタス、オニオンといったシンプルな構成の中に揺るぎない「旨いバーガー」のスタンダードに気づかされる。確かに他のバーガーと比べると、Black label Burgerは値が張った一品。しかしながら、食べて納得のこの逸品は、バーガー好きにも、そうでない方にも是非試して頂きたい。「エンパイアステートビルディングに上ってきたよ」というような達成感を得るに違いない。