タイム・ワーナービルの中にあるマンダリン・オリエンタルニューヨークは、1泊の宿泊費が1000ドル以上、プレジデントスィートならば1泊で1万ドル以上という超高級ホテルだ。その35階には、世界中から集まるゲストをもてなす、フレンチ・ジャパニーズのレストラン、 Asiateがある。その厨房で指揮を取る日本人、シェフ・デ・クジーン(フランス語で「エグゼクティブ・シェフ」の意味)の杉江 礼行さんに出会った。
杉江シェフは、茨城県日立市出身。高校卒業後、実家のそばにあるフランス料理店で6ヶ月アルバイトを始める。その後、辻料理学校に入学し、同校と提携するフランスの料理学校に留学。本場の味を学び、帰国した後には、石鍋 裕氏の経営するクィーンアリスというレストランで2年勤務。その後は、フランスに3年、シカゴ2年、シドニーで5年、海外の厨房を渡り歩く。
杉江シェフの次の挑戦地は世界の中心地ニューヨークだった。きっかけは、シドニー勤務中にシンガポール人のジャーナリストに出会ったこと。この人物からマンダリン・オリエンタルでシェフを探しているという情報を得て、履歴書送る。採用が決まったものの、その後6ヶ月間は、バンクーバー、香港、ロンドンのマンダリン・オリエンタルで開催される食のイベントに参加し、同ホテルでやっていけるという実力を立証しなくてはならなかった。料理の技術と国際センスを兼ね備えていたシェフは、この難関を無事に乗り越え、2003年6月、遂にニューヨークにやって来た。同年12月のオープンに向けた残りの6ヶ月間、スタッフの斡旋やメニューの考案と慌ただしい毎日を過ごした。
ニューヨークに来た当初の杉江シェフのビジョンは、「フレンチ料理のテクニックを基本としながらも、世界中の素材を使ってニューヨークらしさを表現する。そんなメニューをお客様に堪能して頂く。」ということ。その頃と比べ、料理に対する情熱は今も変わらない。現在、ひと月の休日はたったの1日。毎日午前11時には、しこみのために厨房に入る。また、日々のオペレーションの最中には、常に次シーズンの新メニューを考えている。「最高級ホテルで食事をされるお客様に対して、最高の食材で作られた料理を提供するのは当然の事。」と語るシェフ。新鮮な魚を週に3回は築地から空輸で仕入れているというこだわりようだ。
もちろんレストラン内のスタッフは全てアメリカ人だが、日々行なう事は日本とはなんら変わりはない。店内では個性と人柄をみてスタッフとのコミュニケーションをはかる。しかし慣れ親しんだ日本と異なるアメリカで学ぶ事は多い。まずは土壌の違い。日本ではあまりお目にかからない食材も多く、素材の数だけ違った調理方法を習得することができる。そして、もう一つは自由さ。ヨーロッパと同じように、若くても才能さえあれば年齢に関わらず、どんどん上に上がって行く事ができる。「確かに才能はステップアップの鍵。でも物事に近道はないから、一つ一つ着実に学んでいく事が大切。もう一つ大切なのは、ニューヨークを食べ歩いてマーケットを見ること。」これからニューヨークの食業界でチャレンジしたい人達へのメッセージだ。
Asiate |
店内からの見晴らしも雰囲気も格別だ。
フランス料理を熟知している杉江シェフ。そこに洗練されたセンスが加わり見事なプレゼンテーションに。
「ニューヨークでも着実に学んでいく事が大切だ。」と杉江シェフは語る。