アッパーウエストサイドにあるニューヨーク老舗のスーパー「フェアウェイ」。1930年代にネイサン・クリックバーグによってフルーツショップとしてオープンしたこのお店。1969年にオーナーが変わったが、経営がうまく行かず、1974年に創業者の孫、ハワード・クリックバーグと長年フェアウェイにトマトを卸していたハロルド・サイバートとデイビッド・スネッドンにより買い戻された。
新しいオーナー達は近隣が高級住宅街に変わりつつあることに目を付け、フルーツショップからコンセプトを変え、「スペシャリティーフード(高級食材)」を扱うスーパーへと転換した。質の良い食材だが、大量に販売できること、そしてリーズナブルな値段が人気の理由だった。その人気は今も続き、多くの買い物客で賑わっている。このフェアウェイの2階に穴場のステーキハウスがある。
狭い階段を2階に上がると、右側に広がるカフェエリア。そこはスーパーの開店と同時にオープンする。一瞬どこにでもあるスーパー内のフードコートかと思いきや、なんとここでは、あのニューヨークの老舗ステーキハウス「ピータールーガー」と同じクオリティーの肉が手頃な価格で食べる事ができるのだ。その秘密は、この店の精肉部門に隠されている。
「ブッチャー(精肉)部門」に携わること30年、主任のレイ・ベネジアは、ニュージャージの自宅を朝4時に出発し、ブロンクスのハンツポイントにある食品卸売り市場へ向う。天井からかけられた牛肉の色、脂ののり具合、米国農務省認定証の確認を自らの目で厳しくチェックする。
フェアウェイで販売される牛肉は、全米市場のたった2パーセントのシェアしか持たない最高級レベルの「U.S. PRIME」、そして次レベルの「US. CHOICE」のみ。仕入れの際の目利きにレイの経験値が活かされる。彼が購入する肉を決定し市場を出る頃に、老舗「ピータールーガー」のオーナーが肉の買い付けにやってくる。こだわりのある肉屋はレストランよりも早く市場に出向き、イイ肉を買い付けるのが常だという。
市場から肉が配達された後は、2週間程ドライエイジで成熟させる。一定の冷蔵温度で保管されるこの方式は、肉が凝縮されるため重量が減り、販売時には店としては少々損をする。しかし、肉を美味しくさせる為にこのプロセスは必要不可欠なのだとレイは熱く語る。
このこだわりの牛肉やフェアウェイの高級食材を使って料理を作り出すのは、エグゼクティブ・シェフのミッチェル。1980年には、当時のニューヨーク市長、エド・パッチのプライベート・シェフとして、また、市長のみならず、彼の家を訪れる要人達のために7年間に渡り料理を作った。その後、ケータリングビジネスや人気インテリアショップ「ABCカーペット」内のカフェの立ち上げにも携わった。今から8年前にフェアフェイのカフェのオープンに声がかかった。
ステーキハウスがカフェに加わったのは3年前。軽食やペーストリーなどが食べられるカフェとして既に営業していたので、「お店で販売している最高級の牛肉もメニューに加えては?」というアイデアがステーキハウスとしてのれんを掲げた理由。従来のステーキハウスとの違いはなんといっても値段と気軽さ。それが近隣住人のリピーター客が多いネイバーフッド・レストランとしての人気の理由だ。
ここでは、20Oオンスのプライム・ドライエイジ・リブ・アイにフライド・ポテトがついて34ドル。他のステーキハウスと比べて5ドルほど安い。従来のステーキハウスは、サイドディッシュは平均約10ドルで別オーダーになり、デザート、その他のアイテムも割高なので、お勘定する頃には値段にかなり差がでるであろう。
また、この店はレストランが肉屋にオーダーするのと同様、シェフのミッチェルが毎日、その日に必要な肉を精肉部門にいるレイに注文する。レストランで肉の在庫が足りなくなることもあるが、急なオーダーにも常に身近にいる心強いパートナーが対応してくれる。最高の肉を柔軟に仕入れる事ができるステーキハウスとして好条件が整った環境でもある。
ここはアメリカ牛特有の牛肉そのものの味わいを楽しむことができる、最高級肉をお手頃な値段で食べる事ができる数少ないステーキハウスの一つ。しかし、それだけがこの店の特徴ではない。ここはフェアウェイで販売する高級食材のショールームとしての役目も果たしている。牛肉を含め、食べてみて「美味しい!」と思った食品をすぐにその場で買う事もできる。リテールとレストランが一体化し、相乗効果を生み出す。これが長年にわたる成功の秘密なのだ。
美味しいお肉は焼き加減も重要で、なかなか家庭では調理するのが難しい。そこで、ミッチェルに家庭で美味しく焼けるステーキの焼き方を伝授いただきました。
1) オーブンを最高温度(家庭用であれば500度)で15分加熱する。
2) 底の厚い鉄のフライパンをコンロにかけてフライパンを熱くする。
3) あぶらを引いて、お肉を置き、動かさず表面が茶色くなるまで焼く。片面が焼けたらひっくり返して、反対も焼く。
4) 両面焼け上がったらフライパンごと15分オーブンに入れる。(フィレミニオンの場合は、同様で、オーブンには5分)
ちなみに、レストランでは34ドルのリブ・アイステーキ用の肉ですが、精肉売り場で購入すると同じサイズの物が17ドルで購入できます。約半額ですね!
スタッフに常に細かく指示を出すミッチェル氏。彼の目が光るキッチンは、いつも緊張感に溢れている。
広々としたカフェは、近所の常連客また買い物後の休憩場として、終日とてもにぎやか。
独自でドライ・エイジドしたリブアイは、脂ののりもよくとてもジューシー。付け合わせのポテトもカリカリだ。
ガーリックのフレーバーがきいたフィレミニオン。肉厚だけどもとてもやわらかい。
Fairway Cafe & Steakhouse |