中国語で「少しの心」という意味を持つディムサム(飲茶)。何百年も前に中国のお茶屋さん達がシルクロードへの旅人相手に売り始めたのが起源だそう。チャイナタウンにある「ナムワー ティーパーラー」は1920年創業のニューヨークで最も長い歴史を持つディムサムレストラン。19世紀の終わり頃、ペルストリート、モットストリート、バワリーストリートに発祥したニューヨーク最初のチャイナタウンのほぼ中心に開店してから、今日までずっと変わらない味を提供し続けている。
赤い背景に黄色の文字の色あせて古びた看板を入ると、店内はまるで1960年代のアメリカンダイナー。中国っぽさは全く感じられないポップでレトロな内装で、時々映画の撮影に使われたりもするのだとか。インテリアは昔から変わらず、歴史を感じられるランプ、時計や扇風機等は未だに使われている。また、壁にかけられた写真や店内にそのまま置いてある昔使われていたコンロ、キャッシャー、古くなったお茶の缶などから店の深い歴史が感じられる。
ナムワーの先代は、60年間この店を守り続けた。そのお店を去年受け継いだ2代目のウィルソンさんはアメリカ生まれアメリカ育ちのアメリカンチャイニーズ2世。大学ではファイナンス専攻で、卒業後は金融関係の企業に勤めていた。しかし、レストランビジネスを営む家系に育ち、レストラン経営に興味を持っていたという彼は、過去にベーカリーを経営した経験もあったことから、先代の伯父から2代目に抜擢された。
「たとえ休みの日でもお店に顔を出さずにはいられない」と語るほど、お店に愛情を注ぐウィルソンさん。昨今、アメリカ移民の運営するレストランでは子供が後を継がない状況が増える中、ウィルソンさんは今までのナム・ワーのスタイルを守りながらも、アメリカと中国の両方の感覚を合わせ持つ移民2世だからこそ思いつく新しいアイデアでどんどんお店を活気づけている。
まず最初に彼が目をつけたのは、ソーシャルメディア。ウェブサイトを充実させ、フェイスブック、ツイッターをフル活用して、多くの人にこのお店を知ってもらい、そしてお客さんとの交流の場にするため努力している。チャイナタウンの中でも目立たない奥のほうに店があるため、事前に店を訪れようと計画してからでないと来られない観光客も多い。そんな観光客にまず店の存在を知ってもらうためにもソーシャルメディアは役に立っている。さらに店内をWi-Fiフリーにしたりテレビを設置したりすることで、若者や中国人以外のお客さんにも入りやすい環境にした。アルコールの免許も取得したので、ワイン等のアルコールも今後充実させ、広い店内をパーティースペースとして使用していく予定もある。
メニューも従来の伝統的な中華の味を守りながら種類を少し増やし、表示も分かりやすくした。オススメ、グルテンフリー、ベジタリアンなどにはマークを付けて誰にでも一目で分かるようになった。飲茶ならではのカートで運ぶ制度もやめ、オーダーされたものだけを作るので、フレッシュなものがいつでも食べられ、無駄にすることもなく、早めに行かないと無くなってしまうという心配も消えた。「飲茶は朝食かランチ、という常識にとらわれずに、夜でも飲茶を食べにきて欲しい」とウィルソンさんは言う。
人気のオリジナルエッグロールは、薄く焼いた卵焼きで具を包んでから、皮に包んで揚げている。優しい味付けのサクサクシャキシャキな具は程よいアクセント。それらをふわっとした卵が包み、全ての素材をくるみ込むカリカリの皮とのバランスが良い。House Special Pan Fried Dumpling(特製焼き餃子)は、厚すぎない皮にしっかりと味のついた具が詰まっている。シンプルでありながら、エビの存在感がやみつきにさせる一品だ。House Special Roast Pork Bum(特製肉まん)は、中国風肉まん定番の甘酸っぱい味が安心でき、食べごたえがある。Shrimp & Snow Pea Leaf Dumplings (エビとさやえんどうの葉の蒸し焼売)は、さやえんどうの葉の甘さがエビにマッチしていてあっさりとした味でありながらしっかりと印象に残る。どの料理も味付けが比較的薄く、日本人好みの優しいテイストのものばかりだ。
古いレストランのいい所を残しつつ、21世紀のレストランビジネスに必要な要素はしっかりと取り入れ、新しい歴史を刻み始めたニューヨーク最古の飲茶店、ナム ワー。日本人を納得させるニューヨークの飲茶店として、リストに加えておいてほしい。