様々なポテンシャルを持つメンバーの中の１人、科学者のDavidは発酵によって二酸化炭素を産生するシステムを作ろうとしていた。発酵によって目的の二酸化炭素と同時に副生産物としてアルコールが発生する。このアルコールをどうにか活用しようと試行錯誤を重ねた結果、蒸留酒の製造に可能性を見いだし、 The City Foundryの最初のプロジェクトとして Industry City Distilleryを立ち上げることにした。 家庭のキッチンやガレージから試作を始め、７ヶ月前にブルックリンの倉庫のフロアを借り、その6000 sq ft.の敷地に設備を整えることにした。オフィス、機械工作所、生物学研究所、デザインスタジオ、蒸留所にラベル印刷機まで全て１つ屋根の下に揃えた。機械や部品は中古品やオークションで手に入れたもの。発酵、蒸留の設備も全て手作りだ。工具や実験台、ビーカーなどが所狭しと並んでいる様子は、ここが新しいものを生み出す「ラボ」であることを示している。 ウォッカを選んだ理由は、フレーバーの素となるハーブなどの添加をしない、シンプルな製法であるため。発酵と蒸留の技術がそのまま味に繋がるところが魅力だという。

原料はビート（テンサイ）から採れる砂糖を使用し、厳選した酵母を使用している。また出来る限り地元の原材料を使うことを心がけている。発酵はバイオリアクターという、酵母をビーズに固定した、科学技術を使ったハイテクかつ無駄の少ない製法で行なっている。原料にビートシュガーの溶液を使うこと、酵母がビーズに固定されていることから濾過をする必要が無く、連続して発酵を行なうことができ効率が高い。
蒸留についても独自の方法を採る。大手メーカーでは複数回の蒸留によって精製度を高め、炭フィルターで濾過する等の工程を経て雑味の無いアルコールを得るが、彼らは化学的にアルコールの気化温度の違いを利用し１度に30もの区画に分ける。これら30種類の区画はそれぞれ異なるアルコール成分を含み、異なる風味を持っている。その中から好ましくない風味を持つ部分を除き、風味の良い部分だけを残す事で美味しいウォッカが作れるという。このように製造行程の所々において、通常のハードリカーの製法とは一線を画した科学的な製法を取り入れ、他社とは違う斬新なウォッカを造り出しているのだ。
この独自の蒸留法の結果は明確に味に現れており、大手のウォッカがアルコールそのものという印象を与えるのに対し、 Industry City Distilleryのウォッカはすっきりとした甘みが特徴となっている。

現在は375mLのプロトタイプ「NO1」に続き、市場へのデビュー作「NO2」を製造、販売している。製造は小バッチで行なわれ、ビンに貼られるラベルはレトロな活版印刷によって１枚ずつ手作りされている。広報を担当するPeterは、「全て手作業なんだ。分けたアルコールを再混合するのも僕が手でシェイクしているよ」と笑う。彼らの目指すゴールまでの道のりはまだ長いかもしれないけれど、仲間と共に夢を追いかける姿はとても楽しそうだ。 荒削りのデビュー製品「NO2」のリリース以降は、消費者からのフィードバックを参考にさらに改良を続け、「NO9」までリリースする予定だ。その後は750mLの大瓶での本格販売を予定している。現在のラボレベルから、工業レベルへのスケールアップが今後の課題だ。また、ニューヨーク市内でのカクテルイベントにも出展予定。
いまだ未完成、開発者と消費者が一緒に育てていく地元に根付いたウォッカとブルックリンらしいパワーに満ちたグループ、THE CITY FOUNDRY にぜひご注目いただきたい。