イーストハーレムの一画に、パンのいいにおいが漂っている。Hot Bread Kitchenは、所得の低い移民の女性を主な対象とし、パン作りを中心とした職業訓練を行なうNPO団体だ。ユニークなのは、訓練生に給与が支給されるというところ。現在、12名の女性が職業訓練に励んでいる。
世界には様々な食文化に基づいたパンがある。主食であるパンは移民にとってふるさとの味だ。Hot Bread Kitchen ではプロ仕様のキッチンで、熟練したパン職人の指導のもと、訓練生が自身の文化に基づいたパンを商業規模で製造、販売する。 プロ仕様のキッチンで設備の使い方やキッチン内での動き方を身につける事ができるため、普通の料理教室と違い、実際に就職した時に戸惑う事無く即戦力となれるという。
さらにパン作りの実技の他に資金調達や会計処理、マーケティングなどビジネスに必要な知識の教育も行なわれ、また活発な食品業界の他の起業家や投資家と会う機会などがある。訓練生が各自のビジネスモデルを構築するために必要なものが全て備わっていると言えるだろう。
創立者は Jessamyn Waldman氏。名門コロンビア大学で行政学修士号を取得した後、NGOや行政機関、国連で10年のキャリアを積んだ。アメリカ、カナダ、メキシコ、コスタリカ、ボスニア、グアテマラ、チリなど世界各国で働いた経験を持ち、移民の人権問題や地位の向上に貢献してきた。また彼女はパンへの情熱から、ニュースクール大学でマスターベーカーの資格を取得しており、あの有名レストランDanielに初めて雇用された女性ベーカーでもある。 彼女のパンへの思いと、移民の地位向上への取り組みが結びつき 、Hot Bread Kitchenという形で実現した。
“男性はパン職人として地位を確立しているけれど、女性はまだまだ認められていません。私の食への情熱と、移民の女性の地位向上のためにHot Bread Kitchenを始めたのです”
と彼女は言う。2008年に同団体を設立して以来、数々の起業家賞を受賞している。
教育にかかる費用を相殺するためにも、キッチンで製造したパンは市内各所で販売されている。Whole FoodやDEAN & DELUCAを始めとするリテール販売や、市内各所で毎週開催されているGreen Marketへの出店を行なっている。パンの販売は団体の主な収入源となると同時に、ニューヨーク市民に対しても 文化交流や移民の社会貢献について食を通じた教育をすることが出来る。
一番人気はモロッコの素朴なパン、フラットブレッド(平焼きパン)だ。他にもサワー種のライ麦パンやマルチグレインブレッドなど噛み締める程味わい深いパンが多数販売されている。
ユニークなのは、冷凍したパンのセットをアメリカ国内はもちろん、世界各国へ配達できる点だ。NY以外へもこの取り組みやアイデアを発信することができるため、世界の移民の生活向上のためのモデルケースとなるだろう。
Hot Bread Kitchen は先日、有名店Per Se やBouchon Bakeryでヘッドベーカーとして働いた経験を持つマスターベーカーのBen Hershberger氏をヘッドベーカーとして起用している。ワールドクラスのキッチンからNPOへの転職は周囲を大いに驚かせたが、彼は「私はもともと教育者であり、ルーツに帰るだけだよ」と言う。Hot Bread Kitchenはハイエンドなベーカリーと競争して行く力を持つベーカーを育てる事を目標としており、そのパンの品質はもちろん十分に高い。
“製パン業界はいま人材を求めていて、誰か良い職人を紹介してくれないか、と周りからよく相談されるんだ。もちろん、近い将来、私の生徒を推薦するつもりだよ”
名実ともに優れたベーカーを講師として迎え、さらに高品質の、アイデアに満ちたパンが作られることが期待される。
Hot Bread Kitchen
1590 Park Avenue, New York, NY 10029
(212) 369-3331
http://hotbreadkitchen.org
販売店舗
DEAN & DELUCA MADISON
1150 Madison Ave
WHOLE FOOD BOWERY
95 East Houston Street (at Chrystie Street)
CHELSEA MARKET BASKETS
75 Ninth Avenue
など
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